前パン・第7回 東急7915F「もったいないから前パンに」
半年も空いてしまいました、前パン愛好会の投稿。
今回は、東急7915Fを取り上げます。
東急電鉄、緑の鋼鉄車の時代は前パンがありましたが、ステンレス時代になってからは新造されませんでした。
ただ、改造や転属の大好きな東急、ひょんなことから特異な前パン車が生まれました。
それも2編成だけ。
そのうちの1編成、7915Fは、まるで模型のような改造がされて誕生しましたで、
自作の模型で再現しつつ、なぜ前パンになったのか考察してみました。
東急7700系とは
我が国初のオールステンレスカーの7000系。
製造から25年以上経っても車体の状態が良かったことで、車内や足回りを更新することで活用することになりました。
そこで1987年に生まれたのが7700系です。
見た目は7000系のままですが、冷房化され、駆動系も交流モーターやVVVFと最新の仕様になりました。
一般の利用者にとっては、クーラーがついたので、夏は涼しくなったくらいの感覚でしたでしょうが。
ほぼほぼ新車なんですねどね。
当初は目蒲線に導入することになっており、4両編成14本(7901F~7914F)で作られました。
VVVFになったということで、7000系の全電動車から2M2Tと、クハとサハが誕生しました。
4連から3連へ・7915Fの誕生
その後、池上線のワンマン運転開始に合わせて、足回りの更新された7700系で置き換えることになりました。
対象になったのが、7912F・7913F・7914Fの3編成。
1995年より、池上線で活躍することになりました。
ただ、池上線は3両編成なので、4両編成から抜いたサハが3両余ってしまいます。
<> | <> | ||
クハ7900 | デハ7800 | サハ7950 | デハ7700 |
<> | <> | |
クハ7900 | デハ7800 | デハ7700 |
普通ですと、動力のない中間車ですから、使い道がなくて廃車にしてしまうところです。
そこは、
「もったいない東急」
が発動します。
抜いた3両で1編成組めるのではないかと。
今だとSDGsと言えますね。
サハなので電動車改造と先頭車改造が必要なんですが、
新技術のテストも兼ねて改造してしまいます。
ほんと、鉄道模型の世界を実車でやってますね。
誕生したのがこちらです!
中間車に先頭部分を新造し切り継いだ結果、なんと7700系とは全く違う顔になりました。
86年デビューの9000系、88年の1000系、92年の2000系と続いている、次世代の東急顔です。
ステンレスの表面処理も梨地仕上げになりましたので、側面の光沢面との違いがはっきりしています。
デハ7700と比べてみましたが、前面の違いに目がいきますよね。
そりゃ、これだけ顔が違うのですから。
でも、私には見えます。
”前パン”になった
と。
もう、素晴らしい改造です。カッコいいじゃないですか!
とはいえ、14両のデハが「後パン」なのに、なぜ7915だけ「前パン」になったのか。
これには何かしらの理由があるはずです。
鉄ピクを読み込んでも明確な説明がありませんでしたので、考察してみました。
なぜ前パンになったのか?(個人的な考察)
①屋根上の冷房の配置から
まずは、1995年に中間車デハ7800への電動車改造から行いました。
パンタグラフの搭載となりますが、7700系サハの冷房装置は、3つが均等に設置されています。
冷房装置の位置を動かさずパンタを設置すると、パンタの設置できる場所は、冷房の間の2か所になりますね。
ただ、この冷房装置、下りの蒲田方面に偏っているんです。
屋根の様子と冷房の配置を、模型で示してみました。
一番左が、通常の7700系デハ7700。右3両が7915Fになり、右から2両目が中間車のデハ7815です。
五反田側は屋根が見えますが、蒲田側は冷房がギリギリのところに設置されています。
デハ7700は冷房とパンタが同時の改造だったので、
最初から冷房の位置をずらして配置し、スペースを空けてパンタを設置しました。
では、デハ7800の蒲田側、五反田側のどちらのスペースにパンタを設置すればいいのか、
画像を加工しましたので、比べてみます。
どうでしょう。
下段のように五反田側にパンタを設置すると、車両の中央に近づきますね。
屋根上の重量物は、屋根の剛性を保つために、側面2面よりは車端面も含めた3面で支えるのが望ましいです。
そうしますと、できるだけ端のほうがいいと考えられます。
それに、見た目もカッコ悪いですしね。
車両の端に寄せてパンタを設置するとなると、蒲田側を選択するしかありません。
他の7700系の中間車デハ7800は五反田側にパンタがあるのですが、
このデハ7815だけは、蒲田側にパンタがあることになったと思われます。
<> | <> | |
クハ7900 | デハ7800 | デハ7700 |
<> | <> | |
クハ7915 | デハ7815 | デハ7715 |
②中間車から先に改造を始め、先頭車を合わせた
①で示した通り、7915Fは、まず中間車の改造から始めました。
東急で初めて、VVVFをIGBTに切り替え、パンタをシングルアームで搭載し、
実用試験車としての要素が大きいものでした。
先頭車から作ると、運転台の設置など余計な費用と時間がかかりますので、
中間車で試してみる事は理にかなっています。
さらに中間車だと、既存の7700系編成に組み込んで走行し、調子が悪ければ元に戻すことができます。
廃車にしても影響は小さいですから。
実際に中間車を運用した結果、新技術が活用できるとわかりました。
残りのサハ2両が先頭車に改造されて、編成として新技術運用することになり、
デハ7815改造の1年後、1996年に残り2両のサハを先頭車改造しました。
2M1Tのため、1両は先頭動力車になります。
さらに、パンタが1編成に2個必要なので、この先頭動力車にパンタを設置します。
先頭車改造をしても、冷房装置の位置はデハ7815と同じです。
中間車に合わせて、蒲田側にパンタを設置することになったと思われます。
③池上線の他の編成と向きを揃える
先頭動力車にパンタを設置する際に、
①②で示したように、冷房装置の位置の関係から、
蒲田側にパンタを設置することになります。
前パンを避けるのでしたら、
五反田方面の先頭車をデハにすれば、後パンになって他の7700系と同じになります。
<> | <> | |
デハ7915? | デハ7800 | クハ7715? |
<> | <> | |
クハ7915 | デハ7815 | デハ7715 |
上段:後パンにした例 下段:実際の編成
ただ、他の7700系と編成の向きが異なることになります。
1編成だけ異なると、車両の整備や点検、運転など、特殊な編成の違いを把握しないといけないので、
ミスやトラブルを起こしやすくなり、
安心安全のためには、できるだけ統一しておく必要があります。
取り扱いを共通化するためには、蒲田方面の先頭車をデハにするのは理にかなっています。
車番も、デハ7900やクハ7700のように変わる可能性もありますね。
そうすると、蒲田方面の先頭車の蒲田側にパンタが設置されますので、
デハ7715は「前パン」になったと考えられます。
前パンは避けられなかったのか?
①~③より、前パン誕生の理由を考察してみました。
ただ、一つ疑問があります。
それは、
サハを方転すればよかったのでは?
冷房装置の配置がパンタ設置に都合が悪いのでしたら、
サハを方転をして、五反田側にパンタを設置できるようにすることもできたかと思われます。
実際、方転の実績はあります。
7600系は余剰になった向きの同じクハ7500を、
6両のうち3両を方転して前後を運転台にして3編成作りました。
(このあたりの経緯は、あらためてまとめたいと思います。)
ただ、これは運転台があるからで、
方転することによって編成が組成できる意味があるからです。
7915Fの場合は、運転台は後から取り付けるわけですし、
見た目や機能に大きな違いのない中間車を、
方転する必要はなかったかと思われます。
まぁ、パンタのために、
わざわざ方転してまで編成を変えるということはないでしょう。
14年で廃車でも、次世代東急のDNAとして…
このように誕生した7915Fですが、登場から14年後の2010年に廃車になりました。
「新」7000系の導入によるもので、外的要因での廃車でした。
1編成だけの変わったもので、運用や管理も大変だったでしょうが、
試験的な要素の強かったにも関わらず、長く大切に使われたかと思われます。
7915Fで試されたIGBT-VVVFやシングルアームパンタグラフは、
その後登場した3000系や5000系に導入されました。
次世代の東急に、そのDNAが引き継がれたんです。
14年の活躍でしたが、決して忘れてはいけない車両ではないでしょうか。
個人的には、
前パンも引き継いで欲しかったなぁ。
自分の撮った写真があった!
7700系の写真は何枚もあったのですが、
7915Fの写真は、Wikimediaを活用したり、自分で作った模型を撮影したりしました。
1編成だけだと狙っていないとなかなか撮っていないもので、
自分が撮影していたか探してみたところ、たった1枚だけありました。
それがこちら。
あぁ、ひどい…。
蒲田駅の様子なんですが、なんで改札側から撮らなかったのか!
前パン側じゃないなんて。
奥の7600系、7603Fだったらダブル前パンになっていたかもしれないのに。
若さゆえの過ちですね。
後悔のないように、写真はたくさん撮っておくに限ります。
最近のコメント